ソフトはどうする?


ビリー・ワイルダーという映画監督がいる。
黒澤明より年長だから、もう映画を作ってはいない。ハリウッドの最長老である。
近年、脚光を浴びたのは、彼の往年の映画 『サンセット大通り』 がミュージカルになり、
その原作者という存在でだった。
大の皮肉屋として知られるが、1986年に彼を称える大パーティで、
最後におこなったスピーチが有名である。 
ワイルダー、この時、79歳。


 私は半世紀以上、ハリウッドで暮らしてきました。
その間に、映画はサイレントからトーキーになり、テレビができ、ケーブルテレビ、
ビデオ、マイクロチップが発明されました。
いまに、車の中の小型テレビで、または寝室の中型テレビで、映画を観るようになるでしょう。
オルバニー(ニューヨーク州)からザンジバル(アフリカ)までの人々がそうするでしょう。
シリコンバレーの開発者たちによるハードウェアの研究は無限に続きます。
しかし、ソフトはどうするんです?スクリーンに何をうつすつもりです?
われわれ(映画製作者)は消耗品ではない。
王国は彼らのものだが、権力と栄光はわれわれにあります。 


この中の〈ソフトはどうする?〉という、ユーモアにまぶした怒りの言葉をさすがと思い、いまだに覚えている。


以上最初から全部、小林信彦さんの著書 『最良の日、最悪の日』 からの引用です。
この部分に深く共感しているので引用しました。
ビリー・ワイルダー監督は、2002年3月に亡くなっています。)