音楽と技術革新

レコード史1.2と書いているうちに、バッタリ止まってしまいました。
私はいつも書き始めると、本来書く筈の主題に関連はしていても 本筋とは関係のないことが頭に浮かび、それが自分では面白くなって、今 書かなければいけない主題に対する興味が突然失せてしまうというクセがあります。(笑)
今回もその病気が出まして、何とか押さえ込もうとしたのですが、ダメなので、唐突ですが話題を変えさせて下さい。(笑)

11月4日渋谷のオーチャードホールでフランスの作曲家ジャン=フィリッフ・ラモーのオペラ「レ・パラダン」を見ました。 何の予備知識もなく見たので「何だかサエナイ ツマラネーオペラだな!」と思って見てました。 オケは何だか「くすんで」いるし、歌手陣も地味だし。・・・・・・で休憩時間に入ってパンフレットを読んで納得しました。何と「ラモー」って作曲家は18世紀前半の人でバッハやヘンデル時代の「オペラ」だったのです。演出がやたら「現代的」でダンスは今風の「ヒップホップ」「ブレイクダンス」まで取り入れられていたので、私は「現代オペラ」と勘違いしていました。
演奏は古楽器を使用する演奏者で構成されている「レザール・フロリサン」という管弦楽団ですから「派手な音」ではなく「くすんだ音」であるのにも理由があったのです。
ここで話しは前回のレコード史2に戻ります。(笑)
モーツァルト」は18世紀後半の人で、「バッハ」「ヘンデル」「ラモー」と丁度入れ違いで、彼等が亡くなった直後に生まれ、活躍しました。
「ラモー」のオペラ「レ・パラダン」とモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」や「ドンジョバンニ」と比べてみるとオーケストラが出す音の響きが違いますし、歌手の声の出し方まで発達していると感じます。
ここで、私は「大発見をした!」のです。(またか!と言わないで下さい。)
音楽史音楽学の専門家にとっては当たり前の「話」でしょうが、音楽の発達史というのは音量の増量の歴史だったのだということに気付きました。
「バッハ」「ヘンデル」「ラモー」の時代と「モーツァルト」の時代とは楽器が違います。ですから音量が増しています。 オーケストラの編成も人数が増えています。 「モーツァルト」よりも後の時代の「ベートーベン」の時代になれば有名な交響曲第9番「合唱付」で明らかなようにステージの上にのっかっている人の数もどんどん増えています。「マーラー」の交響曲はステージから演奏者がこぼれ落ちそうな程の大編成になっています。勿論私達が現在経験しているコンサートと初演時のオーケストラの編成が異なっているかもしれませんが、18世紀よりも19世紀、19世紀よりも20世紀と時代が進むにつれて、音楽の音量が増大したのは間違いありません。 音量を増量する為に楽器の改造もすすみました。 ピアノも現在の形になるまでに18世紀19世紀にいろんな試みがされて、現在の形に落ち着いたのは多分20世紀の初頭だと思います。 演奏技法も大きな音を出す技法が工夫され、歌唱法も声量の大きな唱法が生み出されました。こうした音量の増大を必要としたのは音楽を楽しむ人の変化だったのだろうと思います。 「バッハ」「ヘンデル」「ラモー」の時代にこれ等の音楽を楽しむ人々は各国の宮廷や貴族の居住する宮廷の大広間といった比較的小さな会場だったのが、18世紀中頃(1879年のフランス革命)前後から、音楽を楽しむ階層が貴族層から市民階層にまで拡がり、多くの人が楽しむために大きなオペラハウスや大きなコンサートホールがヨーロッパ各国で次々と建造されたことも、音楽の音量を大きくする必要があったのでしょう。 音量を大きくするという試みは作曲家の創作意欲を刺激して、19世紀に私達の知っている名曲が数多く生み出されました。
聴衆の増加があり、それを収容する為のホールが大型化し、そこで楽しむ為に、演奏技法の変化と楽器の改造が次々と試みられたのですが、それが壁に ぶつかったのが20世紀の前半で、新しい楽器も登場しなくなり、楽器の改造もほぼ終わり、コンサートホールの大きさもほぼ決まってしまい、音量の大きさを伴った新しい試みは限界にきてしまって、20世紀の中頃からクラシックの作曲家達は進むべき方向を見失ったのではないかと私は思うのです。
一方 ヨーロッパ大陸で発達したクラシック音楽が壁にぶつかった頃、丁度それと入れ代わるような形でアメリカでは新しい大衆音楽が人気となり始めました。 ヨーロッパで発達発展したクラシックは長い歴史がありますから、作曲するにもそれなりの作法があり、聴衆もそれなりの作法を知っていなければなりません。 しかしアメリカにはそんなメンドクサイ歴史はありませんから、作法もなくて自由に音楽を創り、聴衆は自分の自由なスタイルで音楽を楽しみはじめました。 「ジャズ」や「アメリカンポップス」の誕生です。 発明されたマイクロフォンやスピーカーを使ってどんなに騒がしい場所でも音量を増量すれば聴くことが可能になりました。 
第二次世界大戦が終わってしばらくすると、マイクロフォンとスピーカーを利用した新しい楽器が生まれました。 エレキギターをはじめとした電気楽器が生まれました。 マイクロフォン スピーカー エレキ楽器の進歩は飛躍的に音量を増大され、この技術のイノベーションによってロックミュージックという新しいジャンルも開拓されました。 マイクロフォン スピーカー エレキ楽器の進歩はPAシステムとしても定着し、とてつもない音量を保証しますから、20万人、30万人規模の野外コンサートすら可能となりました。
1980年前後には画期的なコンピューターを使った楽器が世の中に出現し、音楽はまた大きく発展変化しました。 しかしコンピューター楽器の出現からほぼ30年たちました。
この30年間新しい楽器は世の中に出現していません。 巨大なPAシステムはさらに洗練されてはいますが、もう音楽と音量の関係に根本的な変化は期待できません。 というよりもうこれ以上の音量の増大を必要としなくなっています。 
音楽を創作する人達はクラシックであれポップス ロックであれいつも新しい驚きを聴衆に与えたくて研究し、工夫をしています。 新しい驚きを聴衆に与える音楽の発展は、これまでは音量の増大をもたらす楽器の技術革新や出現といつも密接な関係があったのです。
20世紀の最初の頃にクラシックの分野で音量の増大を可能にする楽器改造の技術革新がとまってしまって、作曲家が新しい驚きを創ることができないという壁にぶち当たり、クラシックの混迷に入ったと前に書きました。 そして コンピューター楽器の出現以降新しい楽器が出てこない ポップ ロックの分野でも 今 同じこと、すなわち、壁にぶち当たって混迷に陥ってしまっているのではないかと思うのです。